さんきゅーパパシンポジウム聴講報告
NPO法人ファザーリング・ジャパン主催のさんきゅーパパシンポジウムを聴講しました。 副題は、改正育児介護休業法は男性の育休取得率向上の起爆剤になるか!? 6月30日の改正育児介護休業法の施行に合わせて開催されたイベントです。 イベント概要と、プログラムは下記の通りです。 ◇日時: 2010年6月29日(火)15:00~20:00(開場14:30) ◇会場: 女性と仕事の未来館(東京都港区芝5-35-3) ◇対象: 一般および企業担当者など(定員240名) ◇参加費: 無料 ◇主催: NPO法人ファザーリング・ジャパン ◇後援: 厚生労働省、子育て応援とうきょう会議、にっぽん子育て応援団、FQ JAPAN 【プログラム・スケジュール】 15時00分 基調講演「イクメンでいこう!」 ◆渥美 由喜(東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長) 15時45分 パネルディスカッション①~行政への提言 ◆コーディネーター 安藤哲也(FJ) ◆パネラー 成澤廣修(文京区長)、山田正人(横浜市副市長)、山口正行(厚生労働省 雇用均等・児童家庭局職業家庭両立課課長補佐)、大嶋寧子(みずほ総合研究所 政策調査部主任研究員) 16時50分 パネルディスカッション②~企業は何をすべきか? ◆コーディネーター つかごしまなぶ(FJ) ◆パネラー 中川荘一郎(髙島屋 人事部人事政策担当次長)、堀川佐渡(株式会社NTTデータ 人事部ダイバーシティ推進室)、中西拓司 (毎日新聞 生活報道部記者)、岩崎俊介(サービス業会社員) 17時50分 休憩 ◆スペシャルライブ にしむらなおと(FJ) 18時35分 さんきゅーパパプロジェクトのプレゼンテーション 18時45分 パネルディスカッション③~個人・家族の役割 ◆コーディネーター 小崎恭弘(FJ) ◆パネラー 内山勘一(高島屋 東京店営業推進担当課長)、仲木威雄(さわかみ投信 戦略企画部長)、白勢和道(地方公務員)、寺内義典(大学教員)、下村健一(市民メディア・アドバイザー)、清水 朋宏(FQ JAPAN発行人) ◆総合司会 藤森由佳(NPO法人キャリアレンジ代表) —————————————- 以下、プログラムにしたがって気づいたことを書き記していきます。 ・渥美さんご自身が、なぜ男性の育児休業の重要性を研究しているのか、よくわかりました。それがわかることで、渥美さんの見解への信頼感が増したような気がします。 ・職場の無理解=ファミハラ、残業代を稼ぎたい偽装バリバリ(実質ダラダラ)社員の存在、自身が多様化することにより多様な人材とコミュニケーションできる、など、わかりやすく効果的な言葉の使い方に感心。自分でも使ってみたい言葉がたくさんありました。 ・成澤区長は、育児休業をとったことで、人気女性タレントに混じってベストマザー賞を受賞したとのこと。25歳から4期連続で文京区議会議員を務められていたとは知りませんでした。お話が明快で、男性の育休取得推進に強力な味方であると感じました。 ・山田横浜市副市長については著書を読んでいたのでよく知っている方という認識でした。経産省時代の育休取得当時は、出世をあきらめたのか、ということをあまりにたくさんの人から言われてさすがに心配になったそうです。市の職員(横浜市は男性の育休取得率が全国平均の2倍以上)には、育児休業をとってもマイナスにならないことを直接伝える、ということでした。 ・厚生労働省の山口正行さんは、今回の改正・育児介護休業法をまさに作った方です。米国留学中に上のお子さんが生まれたことで、育児の大変さ、すばらしさに気づいたとのこと。安藤さんに促され、2010年度の男性の育休取得率の目標を3%と宣言!普通、お役所の方は公式発表していない数字は簡単には言わないと思っていたので、意外でした。 ・みずほ総合研究所の大嶋寧子さんは、ドイツの事例を紹介してくれました。日本と大きく違うのは、両親手当という収入の7割を保障する制度。これが大きな効果をもたらしたそうです。政策への提言として、社会的に注目度が高まっている今のうちに、たたみかけるような政策が必要ではないか、と。その場にいた人(ちょっと困っていた山口さんを除く)が100%支持する意見でした。 ・育休取得を決めたサイボウズの青野社長がビデオ出演し、「胸をはってどうどうと育児をしてほしい」とパパたちへエールを送っていました。 <パネルディスカッション②~企業は何をすべきか?> ・高島屋さん、NTTデータさん、某テーマパーク社さん、毎日新聞社さん、渥美さんがパネリストでした。 ・NTTデータさんは、全部長に必須研修を受けさせ、ワークスタイル変革宣言を書かせ、それをイントラネットで公開するとともに、自部署で職場セッションを開催して浸透させる、ということをやっているそうです。部長を対象としたこと、その徹底ぶりは難易度が高いと思いました。 ・参考資料として、ヤマダ電機が元旦の営業をしないという宣言をニュースリリースとしてわざわざ発表した事例が紹介されました。安藤さん:「業界のリーディング企業が言わないとね」に対して、NTTデータさんも賛同し、「何でもかんでもお客さんのいうとおりにすればよいというわけではない」と。時短を進めるためには、顧客に対するサービスをどこかで切らなければならないはずで、それを切らない限り長時間残業の大義名分が成立してしまいます。NTTデータのようなIT系の大手が着手すれば、SEやソフト開発の現場での長時間労働が改善されていくと思います。 ・毎日新聞社からは、くるみんマーク取得のため男性社員を1日だけ休ませた例が複数あることが紹介されました。そこにめくじら立ててもしかたないですが、それでも1人と数えれば、次に取得する人は前例があるわけで取りやすくなっているはず。そう考えて今後に期待したいと思いました。夫が育休を取得したが家事をせず、家に帰ったらコンビニ弁当とカップラーメンの残骸があったという妻の訴えには、そういうケースもあるだろう、やり方を何も教えず、ただ子どもの面倒を見なさい、ではうまくいくほうがおかしいかもしれない、という見解でした。 <スペシャルライブ> ・音楽家で音楽療法士、NPOえほんうた・あそびうた代表理事のにしむらなおとさんのパフォーマンスは、とても心がなごむものでした。なんといってもにしむらさんの声が透明感があってきれいでした。また、ウクレレの音色も歌と合わせて完成されていました。小さい子が思わず声を出してはジャンプしていたのにも納得です。 <さんきゅーパパプロジェクト事業説明 by FJ> ・NHIKのプロフェッショナル仕事の流儀のテーマ曲である、kokua(スガシカオ)のProgressが流れました。この曲をバックに、スクリーンにはさんきゅーパパプロジェクトに賛同する全国のパパからのメッセージが次から次へと流れていきました。 ただテキストが流れているだけなのに、とても圧倒されました。これを見て、このプロジェクトは支持されているのだ、ということが実感できました。 <パネルディスカッション③~個人・家族の役割> ・パネリストの平均年齢が下がりました。 ・中で一人だけベテランだったのが元TBSアナウンサーの下村健一さんです。この方は18年前に育児休業を取得し、以来数多くの講演をこなしてこられたとのことで、聴衆に訴えかける言葉をたくさんお持ちでした。 - 自分の中に粘土層(水を吸わない、転じてまわりの意見を受け付けない)がある - 制度があってもダメ、空気がなければ。 - 男性が育休を躊躇する三つの理由:前例がない、自分がいないと仕事がまわらない、周りに迷惑をかける。 - 男性が育休取得で感じた三つのメリット:価値観が変わった、どんな人に会っても(この人も昔はおむつを変えてもらっていたんだと考え)びびらなくなった、企業社会ではないもうひとつの社会(地域社会)を知った ・育休後、モーレツ社員に戻ってしまったという方がいて、男性の場合そうなりがちなところが女性と大きく違うなとあらためて思いました。 ・渥美さんの、「中小企業のWLB」というプレゼンは非常に参考になりました。小さい会社では一人一人の顔を脳裏に浮かべてこの人はどうしたら仕事に集中できるだろうか、と考え、その人ごとに環境を整えてやる。それにより従業員は安心して働けるようになり、自然な忠誠心も生まれてきてがんばろうという気になるのです。従業員が働き方に満足していれば、安心して力を発揮でき、それがお客様へのよいサービスにつながる。そこでよい循環が生まれてきて企業が業績を伸ばすのです。 ・コーディネータの小崎さんが、あえて育休取得のデメリットはありますか、とパネリストに聞いていました。こういう一歩引いた見方は大切です。いいことばかりですよ、では誰も信用しないので、両面を議論したほうがいいのです。さんきゅうーパパプロジェクトでは、全体的にそういった目配りがよく効いていて、多くの人を巻き込みやすい活動になっていると感じました。]]>